マンガ『かくかくしかじか』 それは罪の告白と師に捧げる懺悔、そして……【感想】
※まず注意事項が2つあります。
・この記事の内容は、ただの個人の感想です。「これが絶対正しい!」「これ以外の解釈はあり得ない!」などと主張するものではありません。ぜひエンタメとして軽く受け止めてください。
・本記事ではネタバレをします。
以上の点をご理解いただき、読み進めていただきたく存じます。
目次
かくかくしかじかとは?
予備知識
各レイヤーごとに読み解く
かくかくしかじかとは?
2012年連載開始、2015年連載終了。
コミックス全5巻。
漫画家 東村アキコ(敬称略)が「東村アキコになるまで」を描いた自伝的作品。
内容は、漫画家となった東村アキコが高校生の頃出会った”先生”と過ごした日々を思い出す回想録の体をなしている。
漫画家にあこがれる高校時代から、現在である漫画家時代に進んでいき、最終的に先生との別れを経験して終わる。
予備知識
マンガ大賞 :: 過去のマンガ大賞・ノミネート作品 (mangataisho.com)
かくかくしかじかは2015年にマンが賞で大賞を獲得しています。
これにより、東村アキコという名前くらいは知っているけど読んだ事はない、みたいな一般層にも目が向けられるようになったのではないでしょうか。
……いや、それは言い過ぎですね。
ただ、「賞を取ったり世間で流行ってるマンガだけ読んでいる」というたしなみでマンガを読んでいる層には響いたのではないでしょうか。
各レイヤーごとに読み解く
作品を鑑賞する際は、レイヤー毎に区切って見るとわかりやすくなります。
以前書いたので詳しくは書きませんが、ザックリまとめると
- 作品は3~4の層でできている。
- 1層目はプロデューサーに向けた部分(今はゾンビものが流行ってるのでゾンビものでいきましょう!)
- 2層目はお客さんに向けた部分(昔あった〇〇を発展させたような作品を作ります!)
- 3層目、4層目は制作チームに向けた部分と自分に向けた部分(なぜ自分たちはこの作品を作らなくてはならないのか?)
となります。
それを念頭に置いてすすめていきましょう。
レイヤー
1、対 編集
2、対 読者
3、対 自分
1,対 編集
東村アキコはすでにヒット作を飛ばし、かなりの地位にあります。
固定ファンも多いので、彼女の思い出話をありがたがって聞くファンは少なくないでしょう。
また事実をもとにする作品でありながら、取材する必要がありません。
(東村アキコは記憶力が良い)
そのため連載準備が必要なく、すぐに連載をスタートできました。
これに編集にとっても作者にとってもコスパの良い作品と言えます。
2,対 読者
マンガ家の生活は普段知る機会がありません。(最近は結構ありますが)
そのため興味を持つ人が少なくないということで、そこに需要があるということです。
先ほども言及した通り、東村アキコには結構な数の固定ファンがいます。
商業的に大きく外す事はないと考えるのが普通です。
ファンはまず買いますからね。そういう作品なら。
(現に自分は諫山先生のインタビューを読むためにいくつかの書籍を買っている)
この作品は東村ファンに対するファンサービスの一環であり、同時に東村アキコを知らない人にアプローチするための宣伝とも言えるでしょう。
また、マンガ家マンガを読み漁っている人にも刺さるでしょう。
3,対 自分
この作品の意義は先生に対する思いを精算することにあるのではないかと考えています。
アキコは作中で、先生とロクに真剣な話をできないまま死別しています。
アキコは先生ともっと話をしたかったというか、しておけばよかったと思っています。
なんならごっちゃん(息子)を彼に鍛えて欲しかったとも語っています。
ここまで内面的でドメスティックな内容を吐露する作品は描くことにも多少の抵抗はあるはずです。
それでも、その抵抗を押し切って書き上げたのは、自分の中にモチベーションがあったからに他ならないでしょう。
そのモチベーションは「やるぞ!」というポジティブなものではなく、「やらなくては……」というネガティブなものだったことは想像に難くありません。
先生との交流に未練があるだからこそ、紙の上に先生を保存し、先生を懐かしみ、そして、しっかりと先生と向き合わなかったことを懺悔している。
そういう作品である気がします。
それに加えてもうひとつ理由があるとすれば、
「自分自身が先生になる決意をしたから」ではないでしょうか。
これは別に絵画の先生になるとかそういうことではないです。
(まあ、実際漫画の専門学校とかで講師とかはしているでしょうが)
そもそもこの作品自体が、「まんが道」をやろうとして描いたと言われています。
まんが道は多くのマンガにとってバイブル的存在であり、ここから学んだ作家も少なくないでしょう。
東村アキコ自身もそのひとりであるはず。
そのような作品を自分で描こうとした理由はひとつしかありません。
当時の先生の年齢に近づき、「今度は自分が後輩を育てるステージに突入した」という自覚を抱いたのではないか。
僕はそう思います。
先生との思い出を引きずっていたのは、彼女が生徒だった頃の延長線上にいたからではないでしょうか。
生徒(後輩)を育てるには、自分が先生になる必要がある。
だからこそ、生徒だった時間から抜け出し、前に進む必要があった。
それがこの、かくかくしかじかという作品の意義だったのかも知れません。
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追記
ここまでドヤ顔で語ってきましたが、
インタビュー読んだらほとんどおんなじような事書いてありました(^◇^;)
東村アキコ『かくかくしかじか』インタビュー【後編】 ヒット作連発の人気漫画家がなんでそこまで!?人生むきだしの自伝的マンガ堂々完結!! | このマンガがすごい!WEB (konomanga.jp)
次からはもっと独創的な事を書けるよう、頑張ります。
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新品だと4000円くらいしますが、中古で揃えたので2200円くらいですみました。
東村先生ごめんなさい。
マンガ家マンガといえば吼えペン、みたいなところがあります。
それくらい素晴らしい作品です。
マンガ家の真実、マンガ家の生態……その全てをさらけ出した傑作(フィクション)なので、ぜひ読んでみてください。
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